2011年09月27日

イメージクラシック「夜」その6

モーツァルト 交響曲第38番ニ長調『プラハ』より第1楽章

秋の夜静かな林のその奥に灯りの燈るモーツァルト庵

 日が暮れるのが早くなりました。気がつくとあっという間に辺りが暗くなっていたということが最近よくあります。西空の彼方だけが薄っすらとした水色で、後は藍色の闇にひっそりと包まれています。庭灯は、秋風に吹かれて揺れるろうそくの炎のように、消えかかりそうな橙色の光を涼しげに発しています。それは、まるでおとぎ話の影絵のような夢幻的な風景です。

 秋の夜の夢幻的な抒情を感じさせてくれるのが、モーツァルト交響曲第38番『プラハ』の第1楽章です。この交響曲の第1楽章の大きな特徴は、秋の夜のように長くて夢幻的な序奏と、繊細で抒情的な主題と主題の展開にあります。影絵のように陰陽が交差し、響きは秋の虫の声のように繊細です。僕はモーツァルトの交響曲の中で、

もっともモーツァルトらしい作品

だと思っています。この曲が作曲されたのは、歌劇『フィガロの結婚』を書き上げた後で、オペラの持つ抒情的な世界がこの交響曲に持ち込まれているからかもしれません。

 僕はいつもこの作品を聴くと、夜のプラハの劇場の階段を軽やかに駆け下りて来るモーツァルトの姿を想像します。もしかしたら、秋の夜の影絵の中に、灯りの燈る作曲小屋があって、モーツァルトが忙しく動き回っている姿が見えるかもしれません。



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2011年07月26日

イメージクラシック「夜」その5

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第2番ト長調より第2楽章アンダンテ・ノン・トロッポ

夏のノクターン(夜想曲)

 チャイコフスキーピアノ協奏曲第2番の第2楽章を一言で言うとこのように呼ぶことができるのではないでしょうか。真夜中のさわやかな風を思わせるヴァイオリンとチェロのソロによる掛け合いで始まる抒情的な音楽は究極の癒しの音楽です。

傷は夜に治る

といいますが、まさに過去の苦しかったり悲しかった思い出が美しい音楽によって癒されていくようです。

 1877年チャイコフスキーはアントニナ・イワノヴナとの結婚に大失敗し、自殺未遂まで起こしました。この年宿命交響曲とも言うべき大作交響曲第4番が作曲されています。この事件の後チャイコフスキーはヨーロッパ各地を転々とし、大作の作曲からも遠ざかります。ピアノ協奏曲はこの事件の年から間もない1879年から1880年にかけて作曲されました。ちょうどこのころ彼はイタリアへ旅行しています。そのせいか、この曲にはチャイコフスキーらしからぬ南国的な明るさと歴史的な建造物を思わせる堂々さが満ち溢れています。

 チャイコフスキーはイタリアではいろいろな不安から解放されて、リラックスできたことでしょう。そして、多いに創造力が刺激されたに違いありません。斬新性、革新性こそないものの、楽想はきわめて豊かなのがこの時期の作品の特徴です。イタリアの美しい月夜の中でこの楽章の楽想を着想したのかもしれません。交響曲第4番と同じころに作曲された『白鳥の湖』の情景の音楽とそっくりなところもありますが、今度は自らを舞台の白鳥に置き換えてみたのかもしれません。


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2011年07月01日

イメージクラシック「夜」その4

ラヴェル 『スペイン狂詩曲』より第1曲「夜への前奏曲」

 夕暮れの西の空に輝く宵の明星と糸のように細く伸びる飛行機雲


 闇がゆっくりと降りてくるのが夏の夕暮れです。星や飛行機など夜空に光る点がだんだん輝きを増し、いつの間にか空に川が出現しているのに気がつくのです。視覚的には賑やかさを感じながらも、聴覚的には静けさが夜の幻想的な世界へと誘います。

 ラヴェル「夜への前奏曲」は、まさに夏の宵の美しさと幻想性を感じさせてくれる作品です。冒頭の闇がひっそりと深まっていくような主題はとても神秘的です。この主題は、全曲にわたって、何度も現れ、このことは、スペイン狂詩曲の曲想のすべてが、夢の中で感じた世界であることを物語っています。

 スペインと言えば、明るい昼のイメージがありますが、多くの作曲家は昼とともに夜のスペイン情緒を描いています。スペイン狂詩曲の作曲の直後に作曲されたドビュッシー管弦楽のための映像の「イベリア」ファリャ『スペインの庭の夜』、スペイン狂詩曲以前では、ビゼー歌劇『カルメン』など、スペインの夜の情緒を伝えてくれる名曲がたくさんあります。




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2010年12月15日

イメージクラシック「夜」その3

ストラヴィンスキー バレエ『火の鳥』

 日暮れとともに、クリスマスのイルミネーションが至る所に見られるようになりました。都心の商業地、ホテルはもちろん、閑静な住宅街のイルミネーションは非常に存在感があります。暗闇に赤、黄、青、緑と色とりどりに光る電球は、僕たちの意識を半ば非日常的な感覚にさせてくれます。暗闇の日常と明りの非日常の間の緊張感に心がときめくのです。

 ストラヴィンスキーのバレエ『火の鳥』は、不気味な暗闇と暗闇の中にイルミネーションがまばゆく光る情景を喚起する作品です。この曲は地響きのような不気味な低弦が表わす火の鳥の主題によって始まります。「火の鳥」という言葉からは、何かダイナミックで派手な音楽を想像してしまいますが、この曲はそういった期待とは反対に、闇の中で何かが息をひそめているような暗い音楽が続き、時折明るくリズミカルな旋律が、まるで暗闇の中にイルミネーションが浮かび上がるように、顔を出すといったような音楽です。堂々とした音楽が登場するのは後半の最後の方になってからです。したがって、動的に音楽を楽しむのではなく、静的に絵画を楽しむような感覚でこの作品を楽しむことになります。

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カンディンスキー『馬上の恋人たち』

 ストラヴィンスキーが、バレエの興行師ディアギレフから「火の鳥」の作曲を依頼された時は、まだ無名の若手作曲家でした。ディアギレフはストラヴィンスキーの『花火』というオーケストラのための小品を聴いて、彼に「火の鳥」の作曲家として白羽の矢を立てたのでした。この『花火』は管楽器がアラベスクのように色彩感豊かな音の綾をなす作品で、『火の鳥』に雰囲気が似ています。

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2010年07月26日

イメージクラシック「夜」A

ファリャ 交響的印象『スペインの庭の夜』


 夏の夜空の月は美しい。白く照らされて揺れる運河を流れる風はどことなく涼しい。

 夏の夜は何かしらわくわくとさせるものがあります。盆踊り、花火、キャンプファイヤー、あるいは肝試しといった夜に外に出て行うイベントは夏だけです。そして夜が更けていくとそこに何かがあるのが夏の夜です。

 僕は夏の月夜にはファリャの『スペインの庭の夜』を聴きたくなります。どこか不気味さが漂う神秘的な第1楽章の出だしは、


月夜に照らされた寺社の境内


を彷彿とさせます。おどろおどろしい音楽は長くは続かず、やがてピアノの響きが爽やかな風と共に安心感を運んできます。


夜の神秘感とさわやかさ


が全曲にあふれているこの作品はファリャが留学先のフランスから故郷スペインのマドリードに戻ってから作曲した作品で、彼の代表作『三角帽子』や『恋は魔術師』とは違った絵画的な情緒を持つ傑作だと思います。

第1楽章 ヘネラリーフェにて ハーレムの夜。妖しさと神秘さ。
第2楽章 はるかな踊り 異国情緒に満ちた踊り。
第3楽章 コルドバの山の庭にて  熱狂的なジプシーたちの踊り。やがて熱狂が覚め、静けさとさわやかな風の中に夜は更けていく。



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