2012年08月05日

イメージクラシック「海」その10

ワーグナー 歌劇『さまよえるオランダ人』より第3幕より水夫たちの合唱

ホヨヘ!ホエヘ!ハロヨ!ホ!

 たくましいノルウェーの水夫たちの掛け声。ワーグナー歌劇『さまよえるオランダ人』の中で、この印象的な掛け声は何度も登場します。そして、この掛け声から壮麗な合唱に発展する有名な音楽は、第3幕の最終場面のクライマックスで登場します。この合唱を聴いていると、船乗りたちの船上での生活を楽しもうとする気持が伝わってきます。

 この歌劇『さまよえるオランダ人』は、ワーグナーが20代半ばにして作曲した最初の成功作で、ワーグナー自身の船旅の経験が強く反映されていると言われています。その頃の彼は、ラトヴィアの首都リガで楽長職についていました。その職の収入は少なく、野心に燃える青年音楽家は、方々に借金を作り、船で夜逃げを行なうことになります。ロンドンに向かう船旅の途中で3度も嵐に遭ったのでした。そういうこともあってか、この曲では、静かな凪ぎの海と荒れ狂う嵐の海が実に鮮やかに描かれています。

タグ:ワーグナー
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2012年06月20日

イメージクラシック「海」その9

メンデルスゾーン 序曲『静かな海と楽しい航海』

僕は毎朝の通勤で東京ゲートブリッジを車で渡ります。ゆるやかな勾配を海の方に向かって上っていく時はとても気持のよいものです。時々、橋の下をとても大きな貨物船が進んでいくのを見ることがあります。音もなく静かに波のほとんどない朝の東京湾を進んでいく船の動きと、その上を横切ろうとする僕の車の動きがクロスする時は、何とも言えないちょっとぞくっとする快感を感じます。

夏の穏やかな朝の海をゆっくりと進んでいく船を見ていると、メンデスゾーン序曲『静かな海と楽しい航海』を思い出します。この序曲はゲーテの2つの詩『海の静けさ』『楽しい航海』を音楽で描写したもので、メンデルスゾーンらしいさわやかで生き生きとした楽想を持っています。

 メンデルスゾーンは海が好きだったようで、彼の作品には「海」を連想させるものが少なからずあります。その理由として、彼がエルベ河畔港町ハンブルクの出身であるということがあると思いますが、それ以上に彼は生涯に何度も海を隔てたロンドンに渡っているということが大きいと思われます。彼の代表的な作品である交響曲第4番『イタリア』、オラトリオ『エリア』、序曲『フィンガルの洞窟』などはロンドンで初演されています。一般的にメンデルスゾーンは裕福な家庭に生まれ何不自由なく育った作曲家として紹介されることが多いのですが、ユダヤ人として生涯迫害に悩み続けた作曲家でもありました。そんな彼にとって、ロンドンはとても居心地の良い場所だったのではないでしょうか。ロンドンへの船旅は彼にとって期待に満ちた楽しいものだったにで海への愛着もそこから生まれたのではないかと僕は想像しています。

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2012年02月13日

イメージクラシック「海」その8

ヴォーン・ウィリアムズ 『海の交響曲』より第1楽章

見よ、海そのものを、
そして、その果てしなくうねる胸に、あの船たちを。
見よ、白い帆が風をはらんで、緑と青の海に点々と浮いているのを
見よ、汽船が港から出たり入ったりして、往きかうさまを
見よ、長い旗のような長い煙が、暗くたなびいているさまを。
見よ、海そのものを
また、その果てしなくうねる胸に、あの船たちを
(ウォルト・ホイットマン 三浦淳史訳)

 40歳の誕生日を迎えた今日、僕は新しく開通した東京ゲートブリッジを通って出勤しました。富士山の裾野のような緩やかなスロープを上っていく時のワクワク感は格別なものがありました。橋の頂点からは、東京湾を行きかう船と青空に舞い上がる飛行機が見え、僕の車と船と飛行機がクロスするような何とも言えない気持ちよさを感じました。

新たな出発

 20世紀のイギリスの作曲家ヴォーン・ウィリアムズ海の交響曲の冒頭のファンファーレと、それに続く大パノラマのような合唱、砕け散る波のような音の余韻が同時に響いてきました。

 ヴォーン・ウィリアムズは9曲の交響曲を作曲しましたが、最初の交響曲を声楽入りのオラトリオのような交響曲としました。一見交響曲のようには見えないのですが、4つの楽章の枠の中にきちっと納められています。時々民謡風の親しみやすい音楽も顔を出し、イギリスの作曲家ならではの魅力にあふれています。


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2011年07月08日

イメージクラシック「海」その7

マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調より第4楽章「アダージェット」

夏の浜辺での思い出。大学1年の夏、僕は美術サークルの合宿で小豆島のビーチを訪れた。当時僕は同じサークルの中に意中の人がいて、七夕の夜に告白して断られてから1カ月が経過していた。合宿一日目の夜、僕は先輩が彼女の手を引いて浜辺へと消えていくのを見た。
 
 翌朝の浜辺は太陽のぎらぎらした光を浴びて、誰一人見当たらなかった。彼女が現れるかもしれないという物語のような空想をしながら、熱風の吹きつける浜辺を一人で歩いた。「すべてが終わった」と思った。マーラー交響曲第5番の「アダージェット」が何度も響いていた。夏休みに入る前、ドイツ語の授業で視聴したビスコンティ監督の映画『ベニスに死す』の映像と音楽が僕の頭には焼き付いていたのだった。

 『ベニスに死す』はドイツの作家トーマス・マンの小説で、主人公の作家グスタフ・エッシェンバッハがベニスの浜辺で見かけた美少年に憧れるというストーリーです。最終的には、美少年はベニスを去り、主人公はコレラにかかって死にます。トーマス・マンはマーラーをこの小説の主人公のモデルにしました。そして、この小説を映画にしたビスコンティは第5交響曲の「アダージェット」を用いました。映画のシーンのほとんどがベニスの浜辺ということもあり、「海」と「アダージェット」は切っても切れない関係になっています。マーラーが第5交響曲を作曲したのは、トーマス・マンと知り合う前のことで、マーラー自身はこのような映画に自分の曲が使われるとは考えもしなかったことでしょう。

 さて。「海」とは無関係に作曲されたこの曲のテーマは「憧れしものとの別れ」です。マーラーはおそらく自分に自信がなかったのでしょう。アルマと結婚したばかりの年に、もうこのような音楽を書いているのですから。曲は弦楽器とハープのみで演奏されるモノクロトーンの音楽です。他の楽章がマーラー独特の色彩感ある音楽であるのに対して、このアダージェット楽章だけが昔のフィルムを回しているように異質に感じられます。それだけにとても強い思いが作曲者の中にあったのでしょう。ただ、その時彼が気付いていないことが一つだけありました。「憧れしのもが彼から去っていくのではなく、彼が自分勝手に憧れしものから遠ざかっているのだということ」を。

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2011年07月04日

イメージクラッシック「海」その6

メンデルスゾーン 交響曲第4番イ長調『イタリア』より第1楽章

峠へと続く長い坂道。重いペダルを汗を流しながらこぐ。峠を越えると眼前に開ける

青い海
青い島
青い岬


松の葉茶色がかった幹青空に伸び、むき出しの花崗岩が晴れの日を一層明るくする。

 
 僕は岡山県の玉野市で生まれ育ちました。玉野市は岡山県の最も南部にある児島半島にあります。その児島半島の東端で育った僕は、中学生のころ毎日のように小豆島豊島などを眼前に眺めることのできる岬の峠を自転車をこいで往復していました。真夏の鮮やかな風景を見ながら、僕はいつもメンデルスゾーン交響曲第4番『イタリア』の明るい第1主題と、情熱的な第3主題を思い描き、「児島半島こそ日本のイタリア半島だ」と誇らしげに思っていたものです。
 
 小学五年の時僕をクラシック音楽の世界へ導いてくれたのがメンデルスゾーンでした。初めて親に買ってもらったレコードが、ロッシーニ序曲集(コリン・デイヴィス指揮)とメンデルスゾーンの劇付随音楽『真夏の夜の夢』(ケンぺ指揮)で、B面が『イタリア』でした。僕は当時「交響曲」とは何ぞやということなど全く知りませんでした。聴いてみると、冒頭の明るい第1主題がとても親しみやすく、何度も聴いているうちに第1楽章だけは全部通して聴けるようになりました。そして、ロッシーニの序曲集よりも、聴きごたえのある作品だと思うようになったのです。

 今でも瀬戸内海の夏の風景を思い出すと、自然と『イタリア』の弾むような音楽が頭に浮かんできます。メンデルスゾーンはイタリア旅行中にこの交響曲を着想したといわれています。躍動感あふれるリズムと明暗がすばやく交差する音楽的特徴は、鮮やか色彩効果を生みだしていて、北国ハンブルグ生まれのンデルスゾーンが感じた感動がありありと伝わってきます。スコットランドの旅行中に着想された『スコットランド』交響曲が霧に覆われたようなイメージなのと対照的で、両者の極端な違いに僕はメンデルスゾーンの天才を感じます。

posted by やっちゃばの士 at 12:43| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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