2012年04月07日

イメージクラシック「春の室内楽」その5

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第13番変ロ長調より第5楽章「カヴァティーナ」

夕暮れの桜名残惜しさと物憂さと

 ベートーヴェン弦楽四重奏曲第13番の有名なカヴァティーナはとても不思議な音楽です。そこには祈りと諦念が入り混じったような歌う音楽があります。夕べのイメージを彷彿とさせてくれる音楽でもあるのですが、僕は秋ではなく春の夕べを連想します。まわりは若々しい春が来ているのに、自分はもう年老いてしまったとでもいうような情感でしょうか。

 この曲は1825年(ベートーヴェンの死の前々年)、ベートーヴェンが55歳の時に作曲されました。弦楽四重奏曲第12番、15番とともにセットで出版され、ロシアのガリツィン侯爵の求めで作曲されたことから、ガリツィンセットとも呼ばれています。この3曲の作曲と前作の弦楽四重奏曲第11番の間には約14年間のブランクがあり、前作とは全く違った響き、作風を持っているため、12番以降の弦楽四重奏曲は後期弦楽四重奏曲という総称で呼ばれています。この3曲はそれぞれ違った個性を持っていて、次のような特徴があります。

英雄のように壮大な新境地を歌う第12番
内面の充実を図る第13番
第9のようにドラマティックな第15番

 第13番は派手さはないが大変内面的に充実した作品で全6楽章からなり、器楽的な両端楽章に対して、真中の第2、3、4、5楽章がとても歌謡的なのが特徴的です。このカヴァティーナは第5楽章にあたり、それまで春の陽気にうきうきしていたのだけど、夕べになってちょっと肌寒くもなりしんみりとした気持ちになるとでもいった雰囲気を持っています。カヴァティーナとは抒情的アリアという意味だそうです。



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2011年05月10日

イメージクラシック「春の室内楽」その6

フォーレ ヴァイオリンソナタ第1番イ長調より第1楽章

燦燦と照り注ぐ日の光
明るい小川のせせらぎ
若葉を揺らすさわやかな風
ひらひらと野を舞う蝶々

 フォーレヴァイオリンソナタ第1番の第1楽章、春の感動を思いっきり全身全霊で味わうようなエネルギーに満ちています。春風にゆれる若葉のざわめきのようなピアノの分散和音に乗って、情熱的にヴァイオリンが歌い出す第1主題は、おそらくヴァイオリンソナタ史上、最も喜びと感動に満ちた独創的な開始部分ではないかと思います。僕はこの部分を聴くと

風立ちぬ。春は来たれり。


と自分の心の中で叫んでしまいたくなります。

 
 このソナタはフォーレ30歳の時の作品で、この時フォーレは美しい恋愛の真っただ中にいたと言われています。室内楽に多くの傑作を残したフォーレですが、その作品多くは壮年時代以降に作曲された内面的なものが多く、そういった作品群の中にあって、このソナタだけが若々しさとほとばしる情熱に満ちた異彩を放つ作品となっています。この曲と同じイ長調のフランクのソナタと共に、フランスのヴァイオリンソナタの双璧として光を放ち続けることでしょう。

タグ:フォーレ
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2011年04月18日

イメージクラシック「春の室内楽」その5

ブラームス ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調

青年時代というのは、季節に例えると春から初夏にかけての時節であると言えます。梅の咲くまだ冷たい雨が降る3月のほろ苦さも、桜が散って若葉が伸びる4月の勢い良さも青年時代に感じる心情を象徴するものです。青年時代でなければ書けない作品というものが存在します。20歳を過ぎたばかりのブラームスが作曲したピアノ三重奏曲第1番はまさにそのような曲です。
 
 1853年、20歳のブラームスはシューマン夫妻を訪ねます。翌年に作曲されたこの曲には、シューマン夫人への想いが濃厚にあふれていると思います。ブラームスは絶対音楽にこだわり、曲に標題性を持たせないことに徹底した作曲家でしたが、彼が人生で最初に作品番号をつけたこの室内楽作品は、標題音楽以上に強い標題性あるいは感情の動きを伝えてくれる作品となっています。

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 春の美しい梅や桜に憧れを抱きながらも、花冷えの寒さと苦さに落胆する青年の揺れる心を思いながら聴きたい曲です。

第1楽章 憧れと切なさが同居したような第1主題は何度聴いても忘れられない名旋律です。また、第2主題のためらうような表現はこの曲を一層悩ましいものにしていると思います。

第2楽章 不安と怖れを抱きながらも、次第に青空へ昇っていく雲雀のさえずりのような音楽です。

第3楽章 夜一人で明日が来るのを待ちわびるような雰囲気があります。シューマンの室内楽を彷彿とさせるところがあります。

第4楽章 夢から現実に突き落とされるような音楽で、青年の失恋を描いているように思えます。曲は最後に短調になって締めくくられます。



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2011年02月09日

イメージクラシック「春の室内楽」その4

シューマン ピアノ四重奏曲変ホ長調

春の海ひねもすのたりのたりかな(与謝蕪村)

 午後の温かい陽気に、いつの間にかうとうととしていました。立春を迎えて、時折り春の陽気を少しだけ感じる日がやってくるようになりました。とはいえ、まだまだこれから霜柱が立つような凍える日や雪が降るような寒い日もあるでしょう。それでも、確実に春は近付いています。

 シューマンピアノ四重奏曲の第1楽章冒頭の序奏はこの「春の陽気」にぴったりな音楽です。弦楽器の穏やかな音楽は、凪いだ明るい午後の春の海のようです。その後音楽はシューマン独特の夢見るような明るい音楽が続いていき、シューマンのうきうきした心が強く感じられます。

 この曲はシューマンの「室内楽の年」といわれる1842年に有名なピアノ五重奏曲に続いて作曲されました。この前後する2曲は、どちらも変ホ長調という明るい調性で、躍動感に満ちていますが、夢幻的な楽想と、弦楽器とピアノの絶妙な絡みにおいてはピアノ四重奏曲のほうが充実していると僕は思います。


タグ:シューマン
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2010年05月05日

イメージクラシック 「春の室内楽」B

シューベルト ピアノ三重奏曲変ロ長調

 シューベルトとは、「永遠のさすらい人」という言葉がぴったりくる作曲家です。彼の曲は「野山」などの自然の中を歩いているような感覚にさせてくれる作品がたくさんあります。

グレート交響曲
ピアノソナタ第21番
ピアノ五重奏曲『ます』


などの長調作品において特にこの傾向は見られます。野山を歩いていると

温かい日差し
小川のせせらぎ
風に揺れる草花

が見えてきます。シューベルトの「花」はあくまで「自然」の中の「素朴な花」です。ショパンの「花」が「生け花」のような人工的な美を感じさせるのとは対照的です。


 さて、この曲も第1楽章の冒頭から野山を散策しているような気持ちにさせてくれる明るく伸びやかな響きを持っています。第2楽章はあまりにも美しい音楽です。また変ロ長調という調性はベートーヴェンの『大公トリオ』、またシューマンの交響曲『春』とも同じです。この調性は「」にふさわしい調性なのかもしれません。

posted by やっちゃばの士 at 08:13| Comment(0) | 春の室内楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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