2013年05月26日

イメージクラシック「静寂」その3

モーツァルト 幻想曲ハ短調

静寂の中に広がる深い喪失感

 モーツァルト幻想曲ハ短調、重々しい冒頭のアダージョは、異様で不気味な静寂感を持っています。転調を重ねながら下降していく音の不気味さは、

嵐の前の空が真っ暗になり、風がピタッと止む

光景に似ています。僕は以前「」のカテゴリーでこの曲を取り上げ、まるであの世の曲のようだと記述しましたが、この曲の背後には、何か深い喪失感のようなものがあるように感じます。

 この曲が作曲されたのは1785年、モーツァルトはウィーンで大活躍していました。外面的にはとても幸福そうに見えるこの期間ですが、特筆すべきは、この年に深い悲しみをたたえた短調作品が生まれていることと、秘密結社フリーメイスンに入会したことです。ピアノ協奏曲第20番ニ短調、ピアノ四重奏曲第1番ト短調などモーツァルトの短調の代表的な作品やフリーメイスンのための葬送音楽等がこの年に作曲されています。目に見えない精神的な体験が、この幻想曲には反映されていることは間違いでしょう。

mozart.jpg

ラベル:モーツァルト
posted by やっちゃばの士 at 10:50| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 静寂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月12日

イメージクラシック「静寂」その2

シューベルト ピアノソナタ第21番変ロ長調より第2楽章

 冬の野山はとても静かです。動物の鳴き声は聞こえず、時折風が葉をゆする音が聞こえるだけです。人里から離れれば離れるほど静寂は増し、深い藍色のため池の表面は波一つ立てず、辺りを静寂の闇に包みこんでいきます。

風に乗ってかすかに聞こえてくる明るい歌

 シューベルトの遺作ピアノソナタ第21番は静寂に満ちた長大なピアノソナタですが、そのなかでもとりわけて静寂感に満ちているのが第2楽章です。野山を旅する若者の孤独な心情を表しているように感じます。中間部の明るい旋律は、重い足取りで旅を続ける若者に、どこからともなく明るい春の歌が伝わってくるようです。

 このソナタを筆頭に、シューベルトのピアノソナタには自然の静寂感が漂っているものが多くあります。自然の中を散歩しながら、シューベルトは作曲のインスピレーションを多く得たのかもしれません。


ラベル:シューベルト
posted by やっちゃばの士 at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 静寂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月01日

イメージクラシック「静寂」その1

ブラームス 交響曲第4番ホ短調より第1楽章

 静けさや岩にしみ入る蝉のこえ

 晩夏の夕暮れ時、辺りは蝉の鳴き声一色で、その他の音は何も聞こえなかった。静寂の中で時間は止まり、その景色は色彩を失いどこまでも渋いセピア色の世界が広がっていくのだった。この世界に対しての僕の感情は、悲しいというよりも、ほろ苦いという気持ちだった。

 ブラームス交響曲第4番はセピア色一色と言ってもいいような渋さを持った曲です。特に第1楽章は、音のない静寂の中で動くセピア色の動画のようなもどかしさを持っています。

悲しみよりもせつなさ
甘さよりもほろ苦さ
泣いているようで笑っている
演歌のようで歌ではない
盛り上がりそうで盛り上がら
ない

聴く人の期待に背く本当にもどかしい不思議な曲です。冒頭に芭蕉の有名な句を上げましたが、この句もこの曲と似たような世界を持っています。ただ俳句という5−7−5のたった17音の文字の世界なので、それほど違和感がありませんが、フルオーケストラで十数分もこれをやられるとさすがに心が参るのではないでしょうか。

 ブラームスの交響曲の最高傑作と評価されますが、非常に聴く方はエネルギーを使います。それでも、この作品は従来の西洋の音楽にはなかった日本文化の持つ「わびさび」のようなものを表現する道を切り開いたという意味でその価値は高いのだと思います。ブラームスはのちに、ピアノ独奏曲でこの世界を表現しますが、フルオーケストラだとちょっと無理があったのかもしれません。24色の絵の具で、水墨画を描いたようなものだと僕は思っています。


 それでもこの曲が好きか嫌いかと問われれば好きです。

ラベル:ブラームス
posted by やっちゃばの士 at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 静寂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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