2011年10月14日

イメージクラシック「嵐」その5

ワーグナー 歌劇『さまよえるオランダ人』序曲

 朝激しい雨の中を飛ばしてキャンパスに向かいましたが、夕方になっても、雨は弱まるどころかますます勢いを増して降っているのでした。図書館での勉強を終えた後、絵具を買いに岡山の街へ出かけようと考えていた僕は、迷わず旭川の土手に向かって自転車を飛ばしました。賑やかな市街地に足を運んでみたかったからです。


灰色の空
たたきつけるように降り続く雨
濁流の旭川
煙った靄の中に浮かび上がる後楽園


 自転車はぐんぐんと前へ進み、自転車と平行に流れる川の流れよりも早いのではないかと思われるほどでした。体はびしょびしょに濡れていましたが、僕は気持ちよく市街地に滑り込んだのでした。ぐんぐんと前へ滑るように流れる自転車と共に、僕の想いの中では、ワーグナー歌劇『さまよえるオランダ人』の序曲が最初から最後まで流れていました。

 『さまよえるオランダ人』は、昔嵐で難破した幽霊船のオランダ人の船長の苦悩が、1人の女性の愛と犠牲によって救われるという物語です。このオペラはワーグナーの最初の傑作で、以後彼のほとんどのオペラの中心的なテーマはこの「女性の愛と犠牲による男性の救い」に貫かれていきます。当時の僕はこのテーマに共感し、ワーグナーのオペラばかり聴いていました。

 序曲は、このオペラの音楽のエッセンスが良くまとめられていて、序曲だけ聴いていても、非常に気分を爽快にさせてくれる力を持っています。

@嵐の中を幽霊船が突き進む音楽
A穏やかな港(地上)の音楽
B水夫たちの合唱


の3つの部分からなり、@の動とAの静の対比、@の動とBの動の相乗効果が気分を劇的に高めてくれる原因となっています。ワーグナーの作品は、この曲に限らず、気分を高揚させてくれる効果を持つものが多くあります。台本を自ら書くなど、音楽とドラマの融合に成功した、天才作曲家の魔力がそこにはあるように思います。



 

 
ラベル:ワーグナー
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2011年09月21日

イメージクラシック「嵐」その4

ブラームス ピアノ協奏曲第1番ニ短調より第1楽章

 すさまじい勢いの台風一過でした。木々は根元からなぎ倒され、立っていることも困難になるほででした。このような強い台風に遭遇するのは久々のことです。そんな嵐の日に、僕はこのような強い雨風に立ち向かう男の姿を思い浮かべ見たりもします。

 激しく吹き付ける雨風に真っ向から立ち向かう青年ブラームス

 ブラームスピアノ協奏曲第1番の第1楽章の壮大な序奏はまさに上記のような印象を抱かせる音楽です。怒りも悲しみも悔しさもすべて忘れて目の前に立ちはだかる嵐のような現実と対峙する作曲者の強い意志を僕は感じます。ブラームスは内向的で、ベートーヴェンと同じく小柄でしたが、20歳前半の内向的な小柄な青年の内面には、ものすごいエネルギーの爆発が起きていたのです。

 この曲の作曲中に、恩師シューマンがライン川へ投身自殺を図るという悲劇を経験します。その日は嵐でしたが、シューマンは救助されて一命を取り留めます。この事件がこの曲に大きな影響を与えていることは間違いない事実だと思います。激しい嵐のようなオーケストラの爆発の後、音楽は静まり、第1主題が弦楽器で奏されるのですが、伴奏部分は何か深く沈んでいくように下降していきます。僕はこの部分を、まるで水中深く沈んでいくシューマンと、悩みの底に沈んでいくクララ、ブラームスの意識を表しているように思えてなりません。

 この曲の第1楽章はおそらくブラームスの書いた作品の第1楽章の中で最も長大な規模を持っており、他の作曲家の書いた古今のピアノ協奏曲の名曲の中でも最も長大な規模を持っています。さらに、序奏の主題は展開部、再現部でも堂堂と姿を現すというちょっと類を見ないユニークな構造を持っています。後期のすっきりした展開を好むブラームスの作風から見れば、特異な感じを受けますが、若者が全身全霊を込めて挑んだこの力作が、彼の協奏曲の中では一番好きです。

ラベル:ブラームス
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2011年08月20日

イメージクラシック「嵐」その3

リスト 巡礼の年第2年「イタリア」より『ダンテを読んで』

 何週間か続いた真夏日は、荒れ狂ったような嵐によって破られました。それにしてもすさまじい嵐でした。激しい風は大粒の雨を横からなぎ倒し、霧のように砕かれた雨粒が室内まで吹き込んできました。じわじわと皮膚から噴き出ていた汗はいつの間にか乾き、どんよりと停滞した息苦しい熱気に包まれた朝の空気が嘘のように思われました。
 
 嵐が始まる直前の空は恐ろしいほど暗く、この世のものとは思えない不気味さに満たされていました。余りにも不気味なので、僕は早く雨が落ちてきてほしいと心の中で願いました。降り出しの雨の音を聴いて、僕は「始まった」と思いました。リスト『ダンテを読んで』の冒頭の不気味に下降する和音のように感じました。

 『ダンテを読んで』と同じように、この冒頭の降り出しの和音に続いて、激しく荒れ狂うおどろおどろしい嵐が始まりました。リストは恐ろしい地獄の情景を、荒れ狂う激しい音楽で表現しましたが、まさにこの嵐にぴったりの音楽だと思いました。嵐は数週間続いた熱気を完全に追い払うがごとく、数時間も続いたのでした。

 『ダンテを読んで』の地獄の描写の音楽は、イメージクラシック「嵐」で紹介した、巡礼の年第1年「スイス」の第5曲「嵐」交響詩『前奏曲』の第2部「人生の嵐」以上に、嵐にふさわしい音楽だと思います。「嵐」ではリストの曲が3曲も続きましたが、リストは嵐の音楽が非常に得意なようです。
 
 曲は地獄の恐ろしい音楽の後、煉獄の音楽へと移り、曲の後半は非常に慈愛に満ちた音楽になります。外面的な技巧とともに内面的な深さを味わえるのがこの曲の優れたところであると思います。

ラベル:リスト
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2011年07月19日

イメージクラシック「嵐」その2

リスト 交響詩『前奏曲』より第2部「人生の嵐」

 台風の接近に伴い、突然の大粒の雨に遭遇することが今日は何回もありました。雨が激しく落ちてくるのは正味数分で、その後は何事もなかったようにどんよりと湿った空気が残ります。何度も繰り返しているうちに、「大丈夫すぐに止むんだから」と安心感をもって雨宿りできるようになりました。

 リスト交響詩『前奏曲』の第2部「人生の嵐」。弦楽器が低く呟きながら、次第に嵐の様相を呈してくる場面を、僕はこのスコールに重ねました。リストの音楽は、非常に安定感があってわかりやすく、この嵐の音楽もなぜか安心感を持って楽しくスリルを味わいながら聴くことができます

 この『前奏曲』は、交響詩の創始者としてのリストの代名詞的作品となっています。『前奏曲』という曲名は、固有名詞ではないためちょっと不思議な感じがしますが、「人生は死への前奏曲」という意味で『前奏曲』という言葉が使われています。

 僕はリストの曲には、わかりやすさと安定感があると書きましたが、リストの作品の特徴として、

@作曲者が職人的であること(シューマンは職人的要素よりも詩人的要素のほうが強い)
Aストーリーや標題にあまり縛られていないこと(ベルリオーズはストーリーに縛られている)


があると考えています。

ラベル:リスト
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2011年05月22日

イメージクラシック「嵐」その1

リスト 巡礼の年第1年「スイス」より第5曲『嵐』

 岡山大学の学生のころ、僕は旭川の土手を三野の浄水場から後楽園に向かって自転車で下るのが大好きでした。夕べのオレンジ色に辺りが染まる時や、暮れた旭川の川面に色彩豊かに街の灯りが揺れる夕暮れ時、満天の星の下かすかな音を立てて流れる深夜時、様々な風景が懐かしく思い出されます。そんな思い出に残る風景の中で、最も印象に残っているのが嵐前の風景です。

 繊維工場の煙突から、煙が垂直に流れ出て川の方に向ってきました。独特の工場の匂いの中、突風に自転車はなかなか前に進まず、黒雲からは今にも雨が降ってきそうな気配です。緊張感の中、ただペダルを思いっきりこぐしかありませんでした。
 
 その時僕は大学生なりの悩みを抱えていたと思います。なぜか悩みと葛藤する自分と嵐の突風に向かって走る自分が重なり合って、物語のようにその情景がいとおしく思えるのですから不思議です。

 リスト巡礼の年第1年「スイス」の中にある『』の激しい音楽は、容赦なく吹きつける風のような音楽です。僕はこの嵐の音楽の中に、単なる風景描写を超えた内面の世界があるように感じます。晩年のリストが作曲した「巡礼の年」は外面的な効果以上に内面性が随所に感じられ、若いころの外面的な作品とは一線を画します。

ラベル:リスト 岡山
posted by やっちゃばの士 at 14:54| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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