春の野に響く悲しい鳥の鳴き声
どんよりとした春特有の曇り空。薄暗い明け方に鳴くホトトギス。朝日が差すのをひたすら待つ続けているようだが、大地には桜の香りが広がるだけで光が差さない。何度も体験したこの風景に、回想的な気分になります。昔も今も同じ思い、ただ境遇は変化していく。
果てしなく続く物悲しい思い。モーツァルトの弦楽四重奏曲第15番(ハイドンセット第2番)の第4楽章は、そんな気持ちにさせてくれる曲です。モーツァルトは、そういった楽想を強めるために、変奏曲の形式でこの楽章を書きました。変奏曲では、ある主題(テーマ)が形を変えて繰り返し出て来るため、短調の主題の場合は、悲しみを切々と訴えるような独特の情感を生みます。
特にヴァイオリンが執拗に奏でる三連符は鳥の物悲しい鳴き声のようで、強い印象を与えます。この曲も「モーツァルトの悲しみ7選」のひとつにしましたが、その中でも飛びぬけて深い悲しみを与える曲だと思います。

ラベル:モーツァルトの悲しみ7選 モーツァルト