静けさが覆う暗い森
まるで息をひそめているようだ
晩秋の森は静かです。蛙や虫の鳴き声は全く聞こえず、落ち葉を踏みしめる音がざくざくと聞こえるだけで、足を止めると不気味な静寂があたりを覆います。まるで森が息を凝らして、僕の行動を監視でもしているかのように感じます。
マーラーのカンタータ『嘆きの歌』は森を舞台にした物語に音楽をつけたもので、第1部の「森のメルヘン」の冒頭では森の静けさがホルンとクラリネットによって幻想的かつ牧歌的に表現されます。この牧歌的な音楽は、すぐに不気味な半音に始まる悲劇的なクレッシェンドに打ち消され、劇的に物語の幕が開きます。この開始の部分はとても鮮烈です。
この物語はマーラー自身がグリム兄弟の民話の中の素材を集めて創作したもので、次のような内容です。
第1部「森のメルヘン」兄が王位に就くため弟を殺す
第2部「吟遊詩人」吟遊詩人がその骨を拾って笛を作る
第3部「婚礼の出来事」笛の調べが真相を語り、すべてが滅びていく
マーラーがこの曲を作曲したのは20歳の時で、まさに彼のデビュー作でした。演奏時間70分を超える大作で、すでにオーケストレーションは完成されており、のちの交響曲などにでてくるフレーズなどが何度も登場します。まさに完成された天才を感じる音楽ですが、当時の音楽界にはまったく理解されず、彼は失意のうちに指揮活動の方に専念するようになるのでした。

ラベル:マーラー