ぽかぽかした午後の陽気に野山に散歩してみたくなりました。春の兆しをみつけることを期待しながら、僕は歩きました。たんぽぽや梅のつぼみなどをみつけることができましたが、心はどうしても晴れやかな気持ちにならないのでした。
僕の心に春はいつ来るのだろうか。
シューベルトのピアノ作品には、野山を散策しているような気分にさせてくれる作品がたくさんあります。その中でも、ピアノソナタ第21番はもっともその傾向が顕著な作品です。このソナタは、美しい歌のような旋律が滔々と歌い継がれていき、音楽が激情的になる部分が全くないのが最大の特徴です。31歳でこの世を去ったシューベルトの最後のピアノソナタであり、同時期に作曲された2つのピアノソナタより平明で、何かしら諦念のようなものが感じられます。
シューベルトは生涯独身でした。彼の音楽には独身の孤独と、孤独を紛らす自然への温かい愛情があるように僕には思えます。また、シューベルトが自らの死を意識したかどうか、後世に生きる身として何とでも想像することは可能ですが、穏やかな湖面のように、乱れることも荒れることもなく、静かに色彩を変化させていくこの曲の根本には、深い悲しみと諦念があるように思えてなりません。

ラベル:シューベルト