今冬のオリンピックの真っただ中ですが、そのなかでも一番注目を浴びているのがフィギアスケートです。フィギアスケートはオリンピックの種目の中で、唯一芸術点も評価の基準となるという点で特異な存在です。芸術点というのは絶対的な定量評価ができないものなので、どうしても審査員の主観が入ってしまいます。そうかといって、すべての選手が同じ振付、同じ音楽に合していては、フィギアスケートの楽しみがなくなってしまいます。フィギアスケートはオリンピックを盛り上げるための花とも言えそうです。
フィギアスケートの振付曲と言えば、クラシックです。クラシックで使われる曲といっても、ノリのいいもの、ロマンチックなものでなければ、スピード感や美しさを高めることはできないので、だいたい登場する曲も限られてきます。同じ大会で異なる選手が、同じ曲で違う振付で演技しているということもしばしばです。ちなみに、振付曲はすべて歌なしです。歌が入ると審査員の審査に影響が出るからというのが理由だそうです。そのように考えると、名盤と言われる一流の演奏家の録音を使うことはちょっと危険かもしれませんね。
さて、日本のエース浅田真央選手の振付曲は、アルメニア(旧ソ連)の作曲家ハチャトゥリアンの劇音楽『仮面舞踏会』のワルツです。ハチャトゥリアンと言えば、小学校の音楽の時間に習う舞曲『剣の舞』によって知られていますが、彼は交響曲やピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲などにも傑作を残した大作曲家です。この仮面舞踏会のワルツは彼の作品の中ではポピュラーな曲でオーケストラのピースのひとつとしてCDも何点かありましたが、広く知られるようになったのは、一昨年あるビール会社のCMで放送されるようになってからで、これに影響を受けたのかどうか分かりませんが、その後浅田真央選手がスケートで使うようになりました。
曲は絢爛豪華なオーケストラの全合奏で始まります。このワルツの主題は華やかですが、どこかシニカルで退廃的な雰囲気を含んでいます。実際にこの劇の内容は、ロシア末期の貴族社会を風刺したもので、悲劇の方向に向かって音楽は進行します。個人的には、あまり浅田真央選手のイメージに合ってないような気がするのですが、いかがでしょうか
